Tuesday, June 16, 2009

こんな本読んでいます - 「執念谷の物語」


就寝前読書で2日で読み終えてしまった。海音寺作品は本当に文章がすっきりしていて、「のどごし」が良い。

基本的に短編集。標題の短編小説が、ついこの間(コチラ)ドライブした群馬県の吾妻渓谷と、我家と縁続きらしい(コチラ)真田氏の話ということで、読んでみた。

以前も書いたことだが、海音寺氏はこの短編小説の影の主人公である、真田昌幸にたいしてかなり厳しい評価をしている(「武将列伝」をご参照されたし)。たしかに魅力的な生き様ではあるが、決して褒められた人間ではなかったようだ。この話でも、渓谷の猫の額ほどの土地を争い、後世から歴史としてながめれば取るに足らない地侍たちのエゴとメンツの競り合いの様子を泥臭〜く描いている。もっとも、海音寺氏も作品の最後で触れているように、上州、沼田の領有問題が、真田・徳川、真田・北条、そして秀吉の小田原攻めの遠因となるのだから、面白い。

この小田原攻めに至る部分は池波正太郎の「真田太平記」に詳しく描かれているが、乾いた海音寺氏の筆致とは対照的な池波氏の筆によって、この「真田太平記」の前編部分、昌幸が武田家の寄騎侍大将から戦国大名にのし上がってくる時代を書いてみて欲しかったな。

これは私の思いつきに過ぎないのだが、昌幸の頭の中には信州、上田を中心とする小県郡の本領と、鳥居峠を挟んで岩櫃城を中心とする吾妻渓谷を経て、沼田に続く上州北西部を抑えることにより、信州から越後、日本海へと続く千曲川/信濃川水系と、上州から武蔵/下総、太平洋につながる利根川水系を結ぶ、日本縦断流通路の要を抑える戦略があったのではないだろうか。

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