Friday, May 17, 2013

映画とTVで学ぶ「英国史」- I


古代

文明世界の記録としての「歴史」にイングランド、もしくはブリテン島が登場するのは、ジュリアス・シーザーの「ガリア戦記」がその嚆矢です。しかしこの時代のイングランドは文明的には暗黒時代。残念ながら「歴史」というより「神話」の時代といえます。

日本に関する最初の歴史的記録が中國の三國時代の正史「三國志」、その中で魏の歴史をあつかった「魏書」、その辺境の異民族について書いた「東夷伝」、その倭人の条に記載があるのみで、日本の歴史の上では記紀の神話時代であったこととよく似ています。

Yes, I am a Jew, and when the ancestors of the right honourable gentleman were brutal savages in an unknown island, mine were priests in the temple of Solomon. 


「おっしゃるとおり、私はユダヤ人です。そして閣下のご先祖様が未開の地の野蛮人に過ぎなかった頃、私の祖先はソロモンの神殿に仕える祭司でした。」

(イギリス国会で「このユダヤ人め!」と野次られた後の宰相ベンジャミン・ディズレーリの一言。)

残念ながら、この時代を扱った映像作品はあまりありません。西ローマ帝国最後の少年皇帝がブリテン島まで逃げてきて、のちにアーサー王の剣となるエクスカリバーを残していった、などというストーリーの「The Last Legion」(2007年)という映画がありますが、歴史ドラマというよりはファンタジー作品といったほうがよいでしょう。  

その他、数多いアーサー王伝説にまつわる映画、TV作品も、ファンタジーのたぐいです。民俗学的におもしろいものもありますが。


ノルマン征服からヘンリー2世まで(1066~1189)

イングランドが強力な王権の下の統一国家としての道を歩み始めたのが、1066年のノルマンディー公爵ウィリアムによるイングランドの征服、そして彼のイングランド王としての即位。いわゆるノルマン・コンクエストです。

強力な武力に依拠した統一政権樹立ということで、東国武士団による鎌倉幕府の樹立(1192年)にもつながります。ウィリアムの直系の子孫が3代で滅んでしまったというのもまるで頼朝、頼家、実朝と三代で途絶えた源家将軍のミラー・イメージです。

中継ぎの王様、ブロワ朝のスティーブン王の下での無政府時代の混乱をまとめたのが、初代ウィリアム征服王の孫にあたるマティルダ妃とその息子、後のヘンリー2世(1133~1189、在位1154~1189)。初代プランタジネット朝のイングランド王です。

ヘンリー2世は主に婚姻と血縁に基づいた巧みな外交と、ツボを抑えた局地的軍事力の行使により、イングランドのみならず、フランス西部のほとんどをその版図とする一大帝国の王様になります。

英国法で、法律としての効力を認められる慣習(custom)は、「大昔から(time immemorial)」の慣習であることが条件になっていましたが、英国法の世界で「大昔」とはヘンリー2世の治世以前を指すことになっています。

それというのも、精力的なヘンリー2世が法制度の整理と改革にも力を注いだからで、彼の治世以降、つまりヘンリー2世のあとを継いだリチャード1世(ライオンハート=獅子心王)以降の時代は記録された法律の時代とされたのです。

ですから、たとえばある領主が、「この土地は昔からオレ様の家の土地だったんだから、オレ様のもんだ!」という主張を証明したければ、たとえリチャード1世の治世以降の記録が無くても、ヘンリー2世の時代に所有権が確立していたことを立証することで、その証明をなし得たわけです。

この中世ヨーロッパ世界の大物、ヘンリー2世を一度ならず二度までもスクリーンで演じたのが、名優ピーター・オトゥール。

最初は「ベケット」(1964年)。
 

次に「冬のライオン」(1968年)。
 

晩年のヘンリー2世を演じるオトゥールと演技の火花を散らせる女王エレノア役のキャサリン・ヘップバーン、そして後継ぎのリチャード獅子心王を演じる若き日のアンソニー・ホプキンスということで、「冬のライオン」もいい作品ですが、歴史のお勉強としては「ベケット」がいいかもしれません。当時のイングランドにおける征服者としてのノルマン/フランス人と、被征服者としてのアングロ・サクソン人の対比。王権と宗教権の対立などが、ストーリーに織り込まれているからです。またヘンリー2世を演じるオトゥールと、カンタベリー大司教トーマス・ベケットを演じるリチャード・バートンの当時の二大俳優のそろい踏みもなかなか見応えあります。二人とも舞台経験が豊富なので、セリフ回しが比較的に明快に聞き取れます。

(但しこの「ベケット」には史実と異なる点がいくつかあるのでご注意を。例えばベケットは映画で言われるようにサクソン系ではなくノルマン系の人物です。)

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