Monday, November 26, 2007

千里走単猪 (其之二)

一泊目の投宿先を昆明翠湖賓館にしたわけは、このホテルに邱永漢さんが自ら出資した雲南コーヒーの店、「Q's Coffee」を出店しているからだ。昆明でトップクラスのこのホテルは昆明の市民憩いの場、翠湖のほとりに立っている。

たしかにごリッパなホテルだ。しかし翠湖の方は以前訪れた杭州の西湖同様、あまり感動しなかった。安っぽい中国風の東屋が点在し、そこらここらで中国人たちが集まって歌ったり踊ったりしている。なにやら元紅衛兵みたいな中年集団が勇ましい歌を歌っているのを遠巻きに眺めつつ、30分も歩き回ったところで早くも食傷気味。さっさとホテルに引き返し、くだんのコーヒーをごちそうになることにした。

コーヒーは確かにうまかった。酸味が上品。でもあともうちょっとコクが欲しいところ。しかしコーヒーより感心したのはお店のウェイトレスの接客態度が驚くほど洗練されていたこと。中国人従業員相手にここまで教育を徹底させているということに、関係者の努力が偲ばれる。コーヒーだけならどこでも手に入る。しかし、こうした上質のサービスを一世代前までは「接客サービス」という概念が存在しなかった中国に根付かせた功績は尊い。「ものつくり」と「ひとつくり」の結晶だ。さすが。

そんなこんなしているうちに、夜になってしまった。市内観光は後日とし、ホテル内を散策。ジム、プール、サウナにマッサージのサービスがあるというが、昨年のヴェトナムでの経験からあまりこういう場所で自分の局部を初対面のオバチャンにいじられるのはゾッとしないので、敬して遠ざけさせてもらう。


ホテルの3階にバーがあるというのでのぞいてみたら、超豪華ケンランな中国風ナイトクラブだった。ようするに大音響カラオケとダース単位のホステスおねえちゃんがはべる場所。エレヴェーターの扉が開いたとたんに、閲兵式よろしく左右に並んだおねえちゃんたちが一斉に中国語で

「いらっしゃいませ!」

(多分...)

と叫んだのに怖じ気づいてしまい、こっちもパス。

フロントで翌日の石林行きのタクシーを予約し、もう一泊する旨を伝え、館内の中国レストランで點心喰って(通常メニューは終わっていて夜食メニューだった)、この日は終わり。

翌朝8時に予約したタクシーに乗り、世界遺産の石林へ向かう。ガイドブックでは昆明から1時間ちょっとの距離。しかしタクシーは昆明市の朝のラッシュアワーにつかまり、市街地を出るのに一時間かかってしまった。市の環状道路(多分)の交差点にあたる場所では、「大理」だとか「貴陽」、「重慶」と書かれたミニバスたちが客待ちであちこちに路上駐車していて、渋滞を悪化させている。排気ガス汚染がものすごい。車の窓をしめきっても、排気ガスのにおいが鼻の奥を刺激する。

なんとか市外に脱出。

観光に力を入れている雲南省。さすがに昆明と石林をつなぐ「昆石高速道路」は快適な道だった。しかし道路脇に書かれている交通標語らしきものの存在は解せなかった。もちろん中国語なのだが、横書きの文章は、日本語同様、左から右に書かれている。中国では車は右側通行なので、道路の右側の壁に書かれている標語は、車の進行方向の一番遠いところからその文章が始まっているのだ。ようするに、車を運転しているものは文章のケツから読み進めていくことになる。もしかしたら反対車線の車に読ませるために書いてあるのかな、とも思ってみたが、中央分離帯の生け垣のせいで、反対車線の車からこっち側の壁の標語は読めない。まぁ、国はちがっても行政のムダというものはどこにでもあるものなのだなと納得。

約2時間かけて石林に到着。タクシーは石林入り口そばの飯屋の前につけた。

(あぁ、多分タクシーの運ちゃんとグルなんだろうな~)

と分かっていても、別に怒る気もしない。彼らも、もちつもたれつなんだろう。

車を降りたとたんに飯屋のオバチャンが飛び出してきて、どうやらコーヒーを進めているらしい。それじゃ失礼して...とお世辞にも美味くないコーヒーをすすっていたら、

「今日のあなたのガイドです!」

と当地少数民族のサミ族の民族衣装をまとった女性を紹介された。

頭を巡らせてガイド嬢をみると、これが超弩級美人。な、な、なんなんだ、なんなんだ!と思わず取り乱す私。スラっと背が高く、しなやかにのびた四肢に、流れるような白い民族衣装がよく似合う。色白の肌に、形のよい鼻梁。ぱっちりとした目。婉然とした微笑みを浮かべてこっちを見ている。

(あ、ありがとうございます!邱センセー!!やっぱりあなたは正しかった!!!)

思わずポーッとしてしまったが、ハッと思い返して、片言の中国語で、

「英語はなせますか?」

と聞いたら、

「ダメ」

とのお答え。

約3秒間ほど苦渋の思案をした後、

「すいません。英語のできる人お願いします...」

これを聞いて、美女は「プイッ」と去っていってしまった...。

One that got away... (写真だけでも取らせてもらえばよかった...あぁ...)

代わりに登場したのが、この御仁。

英語がしゃべれるガイド。

男性。

当年24歳のアヘイ君(アヘイとはサミ族の言葉で「男の子」という意味の普通名詞らしい)。

なんか幸先悪るい様な気がしてきた...。

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